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四八  第二および第三のお言葉



 第六時ごろ全く不思議にも太陽が暗くなり始めた。初め、東の方に暗い雲の層が見えたが、それが山のようになって間もなく太陽をまったくおおいかくしてしまった。その映像の真ん中は灰色で、その周囲は赤熱した輪のように赤く輝いていた。空はまったく暗くなり、星が赤くきらめきながら現れ始めた。人間と獣は非常におののき始めた。家畜どもはうなり声をたてて走り回り、鳥は隠れ家を求めて、カルワリオ山を取りまく高地に群れをなして落ちて来た。そしてそれを手づかみにすることさえ出来るほどであった。嘲り、罵っていた者は沈黙してしまった。しかしファリサイ人たちはすべてを自然現象であると説明に努めた。それもうまくゆかず、かれら自身恐怖に捕らわれた。人々は空を見上げていた。そして多くの者は胸を打ち、手をもみよじり、「かれの血はかれの殺害者の上にかかれ!」と叫んだ。何人かはひざまずいてイエズスにおゆるしを乞うた。すると主はまなざしをかれらにお向けになった。

 みなの者は天をあおいだ。十字架のまわりに聖母とその親しい友のほか、だれも居なくなった時、ディスマスは深き痛悔と謙遜をこめた希望をもってその頭を上げ主に言った。「主よ、あなたがみ国に入りたもう時、わたしを思い出して下さい。」するとイエズスはかれに答えたもうた。「まことにわたしはおまえに言う。今日おまえはわたしと共に楽園にあるだろう。」

 聖母は熱心に心の中でおん子と共に死なんことを祈って居られた。その時救い主は愛すべきおん母をじっと同情をこめて見つめられた。それからヨハネにまなざしを向けつつ聖母にこうおおせられた。「婦人よ、ごらんなさい、そこにいるあなたの子供を。」さらにヨハネをほめてこうおおせられた。「かれはいつも無邪気な信仰を持っていた。そしてその母親がかれを高位につかせようとした時以外、つまづいたことがなかった。」そしてヨハネに言われた。「見よ。おまえの母がそれである。」その時ヨハネはよき息子のように、今や自分の母ともなったイエズスの母をうやうやしく抱擁した。しかしこの遺言の後に聖母の緊張と苦痛が大きかったので、聖婦人たちは聖母を抱きつつ、十字架に向き合っている土塀の上にしばらくお休ませした。

 その時はわかりきったように明らかなことも、あとになってそれを言葉でうまく説明出来ないというようなことがままあるものである。イエズスが聖母に「母よ。」と呼びかけられなかったということも。その時は別段だれも不思議とは思わなかった。聖母が光栄ある地位を持たれた方であることを人々が感じとったのは、おん子の犠牲の死によって、蛇の頭を踏み砕くべき婦人という、あの約束が成就されたその時であった。わたしはその時イエズスのお言葉を聞いて、ヨハネが主を受け入れたように主を受け入れる者に、また主のみ名を信ずるすべての者に、聖母は母となりたもうのだと感じた。またわたしは聖母がふたたび心のうちにへりくだって「わたしは主の下婢です。あなたのおおせのごとくなりますように。」とおおせになって神のすべての子たちを、すなわちイエズスのすべての兄弟達を、ご自分の子供として受け入れられたことを感じた。しかしすべてこれらのことはその時は非常に単純に、またそうあるべきであるように思われたが、今は非常に複雑に感ぜられる。それは言葉をもって表すより神の恩恵によって悟るべきである。

 エルサレム全体は恐怖と狼狽とに満ちた。街々はもやと暗闇とに閉ざされた。多数の人々はそちらこちらの片隅に隠れ、頭をおおいかくして胸を打った。またある人たちは屋根に登り、空を見上げて嘆いた。獣はうなりつつ隠れた。鳥は低く飛び、地面に落ちて来た。ピラトはヘロデを訪れていた。かれらは、今朝救い主が嘲弄されておられる所を、ヘロデが見下ろしていたテラスから共に空を見上げていた。かれらはすべてを自然現象として説明すべきだと言っていた。しかしイエズスをまったくひどい目に会わせたものだと語り合っていた。それからヘロデはピラトといっしょにピラトの館に行った。二人とも非常に心配し急ぎ足であった。かれらは護衛を連れていた。ピラトはイエズスに判決を与えたガバッタの方を見向きもしなかった。その場所は荒涼としていた。人々は家の中に逃げ込み、嘆き憂いつつうごめきまわっていた。ここかしこに人々が群れ集まっていた。ピラトはユダヤ人の長老をその館に呼びよせて、この暗闇をどう考えるかと尋ねた。ピラト自身の考えでは、これは戒めの現象であると言った。あのガリラヤ人の死を力づくで乞い求めたことをおまえたちの神が起こっているようだ。 - かれは確かに預言者として主であったにちがいない。 - 自分もかれの無罪を主張して手を洗ったのだと言った。ところでかれらはすべてをごくありふれた自然現象と説明して、一向その頑迷さを改めようとはしなかった。しかし多くの民衆や兵卒たちは改心した。

 そのうちに次第に大勢の群衆がピラトの館の前に集まって来た。そして今朝「そいつを殺してしまえ!十字架につけろ!」と怒鳴っていたその同じ場所で、今やかれらは「不正な裁判官、かれの血はかれを殺害した者の上にかかれ!」と叫ぶのだった。ピラトはさらに多くの兵で身辺の護衛を固め、群衆の前に進み出て、かれらユダヤ人を大いに非難した。 - 自分はイエズスの死にはなんの責任もない。あのガリラヤ人は自分の王でもなければ、自分の預言者、聖者でもない。かれはおまえたちのものだった。おまえたちがイエズスをこうしたんだ。自分にはなんのかかわりもないのだ。 - と。

 神殿では不安と恐怖が最高度に達していた。かれらがちょうど過越しの羊を屠っていた時、突然暗くなりだした。すべての者がうろたえ、あわてた。そこ、ここに嘆きの叫びが起こった。大祭司は静粛と秩序を保とうとして八方てを尽くした。ランプがともされた。アンナは非常な不安に駆られ、一方の隅から他の隅へと隠れ場を求めつつ、走りまわっていた。しかしますます暗くなる一方であった。




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